食品工場において、食の安全を守ることは最優先の使命です。特に、食品が直接触れるトンネル型フリーザーの衛生管理は、HACCP(ハサップ)システムを運用する上で極めて重要な管理点(CCP)となり得ます。
「洗浄に時間がかかりすぎて、生産時間を圧迫している」「洗浄しても、本当にきれいになっているか不安」「アレルゲンのコンタミネーション(交差汚染)対策に悩んでいる」
このような洗浄に関する課題は、多くの食品工場が抱える共通の悩みです。不適切な洗浄は、微生物の増殖による食中毒リスクや、アレルゲンの混入といった重大な事故に直結するだけでなく、洗浄作業の長時間化による人件費の増大や生産性の低下も招きます。
この記事では、トンネル型フリーザーの洗浄と衛生管理に焦点を当てた、実践的なマニュアルを提供します。HACCPの考え方に基づいた効果的な洗浄手順から、洗浄時間を劇的に短縮するCIP(自動洗浄)システム、そして洗浄性を根本から変えるフリーザーの構造まで、専門家の視点で徹底解説します。
この記事を読めば、食の安全を確保しながら、洗浄作業の効率を最大化し、生産性を向上させるための具体的な方法がわかります。
トンネル型フリーザーの全体像や基本的な選び方については、まずこちらの完全ガイドをご覧ください。
▶ トンネル型フリーザー完全ガイド|仕組み・価格・選び方から17の疑問に答えます
Contents
HACCPにおけるフリーザー洗浄の重要性
HACCPは、食品の製造工程における潜在的な危害(ハザード)を分析し、それを継続的に監視・記録することで製品の安全性を確保する衛生管理手法です。トンネル型フリーザーは、このHACCPシステムにおいて、以下のような危害要因(ハザード)が発生しうるポイントとして管理されます。
•生物学的ハザード: 洗浄不足による微生物(細菌、カビ、酵母など)の増殖。
•化学的ハザード: 洗浄剤や殺菌剤の残留。
•物理的ハザード: 破損した機械部品の破片などの混入。
•アレルゲンハザード: 前の生産品目に含まれるアレルゲン物質の残留と、次製品への混入(コンタミネーション)。
これらのハザードを管理するためには、「誰がやっても同じ結果になる、検証可能で効果的な洗浄手順」を確立し、それを記録することが不可欠です。
洗浄性を劇的に変える!フリーザーの構造と機能
効果的な洗浄は、作業員の努力だけに頼るべきではありません。フリーザー自体の構造が「洗浄しやすい設計」になっているかどうかが、最も重要な要素です。フリーザーを選ぶ段階で、この洗浄性を見極めることが、将来の運用コストと安全性を大きく左右します。
フリーザーの具体的な選び方については、こちらの記事で詳しく解説しています。
▶ トンネル型フリーザーの選び方|失敗しないための5つの重要ポイント
究極の洗浄性「ダクトレス構造」
従来のトンネル型フリーザーは、庫内に冷気を循環させるための「ダクト(風道)」が設置されていました。このダクトは構造が複雑で、内部に多くの死角を生み出すため、洗浄の際には多くの部品を分解する必要があり、時間と手間がかかる大きな要因となっていました。

ダクトレス構造は、このダクトを完全になくした画期的な設計です。庫内の構造が非常にシンプルになるため、以下のメリットが生まれます。
•圧倒的な洗浄性: 凹凸や死角がなく、洗浄水や洗浄剤が隅々まで行き届きます。
•分解不要: 洗浄のために部品を分解・再組付けする必要がなく、作業時間を大幅に短縮できます。
•高い衛生レベル: 汚れが溜まる場所自体が存在しないため、微生物の増殖リスクを根本から断ちます。
洗浄の自動化「CIP(定置洗浄)システム」
CIP(Cleaning In Place)は、装置を分解することなく、内蔵されたスプレーノズルから洗浄剤や温水を噴射し、洗浄から殺菌、すすぎまでを全自動で行うシステムです。

| CIP導入のメリット | 詳細 |
|---|---|
| 作業時間の大幅短縮 | 洗浄作業を自動化することで、オペレーターはその時間を他の生産的な業務に充てることができます。夜間など、人のいない時間帯に洗浄を完了させることも可能です。 |
| 洗浄品質の標準化 | 人による手作業のばらつきがなくなり、常に検証された同じ手順で洗浄が行われるため、HACCPが要求する「安定した洗浄レベル」を担保できます。 |
| 安全性の向上 | 高温の湯や強力な洗浄剤を扱う危険な作業から作業員を解放し、労働安全衛生を向上させます。 |
排水性を高める「床タンク構造」
庫内の床全体が、大きな排水口を持つステンレス製のタンクのような一体構造になっている設計です。これにより、大量の水を使った洗浄が可能になり、水や汚れ、製品カスが庫内に残ることなく、スムーズに排水されます。

【実践編】トンネル型フリーザーの洗浄手順
ここでは、CIP(自動洗浄)を搭載したフリーザーの標準的な洗浄手順と、手洗浄の場合の手順を解説します。
※メーカーによりCIP仕様、手洗浄方法は異なります。
CIP(自動洗浄)の場合
1.準備: 制御盤のタッチパネルで、洗浄する製品レシピに対応した洗浄プログラムを選択します。
2.自動洗浄開始: スタートボタンを押すと、以下の工程が自動で実行されます。
•予備洗浄(水): 庫内に残った大きな製品カスなどを水で洗い流します。
•本洗浄(アルカリ洗浄剤): 加温されたアルカリ性洗浄剤を噴射し、タンパク質や油脂汚れを分解・除去します。
•中間すすぎ(水): 洗浄剤を水で十分に洗い流します。
•殺菌(殺菌剤): 次亜塩素酸ナトリウムなどの殺菌剤を噴射し、微生物を殺菌します。
•最終すすぎ(水): 残留した殺菌剤を完全に洗い流します。
3.完了確認と記録: 洗浄完了後、ATPふき取り検査などで清浄度を確認し、結果を記録します。
手洗浄の場合
1.準備: 電源を切り、安全を確保します。必要な保護具(ゴム手袋、長靴、保護メガネ)を着用します。
2.部品の分解: コンベアベルトやガードなど、洗浄に必要な部品を取り外します。
3.大きな汚れの除去: ヘラやブラシを使って、庫内やベルトに付着した大きな製品カスを取り除きます。
4.予備洗浄: 水で全体を洗い流します。
5.本洗浄: 発泡洗浄機などを使ってアルカリ性洗浄剤を塗布し、ブラシやスポンジで汚れをこすり落とします。
6.すすぎ: 洗浄剤が残らないよう、十分に水で洗い流します。
7.殺菌: 殺菌剤を噴霧または塗布し、規定時間放置します。
8.最終すすぎ: 殺菌剤を十分に洗い流します。
9.乾燥と組付け: 部品を乾燥させた後、元通りに組み立てます。
10.完了確認と記録: ATPふき取り検査などで清浄度を確認し、結果を記録します。
洗浄効果を高めるための注意点
•洗浄剤の選定: 汚れの種類(タンパク質、油脂、でんぷん等)に合った洗浄剤を選びましょう。不明な場合は、洗浄剤メーカーやフリーザーメーカーに相談してください。
•温度と濃度の管理: 洗浄剤は、定められた温度と濃度で使用することで、その効果を最大限に発揮します。CIPの場合は自動で管理されますが、手洗浄の場合は特に注意が必要です。
•物理的な力: 洗浄は「化学的な力(洗浄剤)」だけでなく、「物理的な力(水圧やブラッシング)」を組み合わせることで効果が高まります。
•乾燥: 洗浄後は十分に乾燥させることが重要です。水分が残っていると、微生物増殖の原因となります。
まとめ:洗浄しやすいフリーザーが、工場の未来を創る
トンネル型フリーザーの衛生管理は、食の安全を守るための生命線です。そして、そのレベルを決定づけるのは、日々の地道な努力だけでなく、洗浄しやすい構造を持つフリーザーを選ぶという「最初の選択」です。
【衛生管理成功のポイント】
•HACCPの考え方に基づき、検証可能な洗浄手順を確立する。
•洗浄時間を劇的に短縮し、品質を安定させるCIP(自動洗浄)の導入を検討する。
•分解不要で死角のないダクトレス構造など、根本的に洗浄しやすい設計のフリーザーを選ぶ。

洗浄作業の効率化は、単に時間を短縮するだけでなく、作業員の負担を軽減し、より付加価値の高い業務へリソースを再配分することを可能にします。それは、企業の生産性向上と競争力強化に直結する、戦略的な投資と言えるでしょう。
KOGASUNでは、洗浄性を極限まで高めたダクトレス構造やCIP自動洗浄システムを標準搭載したトンネル型フリーザーをご提案しています。お客様のHACCPシステム構築のサポートから、最適な洗浄プログラムのご提案まで、トータルでご支援いたします。
フリーザーの衛生管理にお悩みの方は、ぜひ一度ご相談ください。
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