「急速冷凍した食品は、なぜ美味しいままなの?」 「家庭の冷凍庫で凍らせたものと、何が根本的に違うの?」
急速冷凍技術がもたらす品質の高さは、多くの人が経験的に知るところとなりました。しかし、その「なぜ?」という科学的な原理までを、正しく理解している人は意外と少ないのではないでしょうか。
この原理を理解することは、単なる豆知識にとどまりません。
•なぜドリップが出るのか
•なぜ食感がパサパサになるのか
•なぜ急速冷凍機が必要なのか
といった、冷凍にまつわるあらゆる疑問への答えとなり、より高品質な冷凍を実現するための具体的な指針を与えてくれます。
この記事では、業務用急速冷凍機の専門メーカーであるKOGASUNが、美味しさを保つ鍵となる「氷の結晶」に焦点を当て、急速冷凍の科学的な原理を、図解を交えながら誰にでも分かりやすく解説します。
Contents
すべての鍵は「最大氷結晶生成温度帯」にある
食品の品質を左右する、冷凍における最も重要なキーワード。それが「最大氷結晶生成温度帯(さいだいひょうけっしょうせいせいおんどたい)」です。
食品に含まれる水分は、0℃から凍り始めるわけではありません。多くの食品は、-1℃から-5℃の間で、その水分のほとんどが氷へと変化します。この温度帯を「最大氷結晶生成温度帯」と呼びます。
そして、冷凍品質における最大の分かれ道は、「この温度帯を、いかに速く通過できるか」という一点にかかっています。
•緩慢冷凍(家庭用冷凍庫など): この温度帯をゆっくり通過する。
•急速冷凍(業務用急速冷凍機): この温度帯を一瞬で通過する。
この通過速度の違いが、次に説明する「氷の結晶の大きさ」に決定的な差を生み、最終的な品質の違いとなって現れるのです。

氷の結晶の「大きさ」が細胞を破壊する
では、なぜ最大氷結晶生成温度帯をゆっくり通過すると、品質が劣化するのでしょうか。その犯人は、食品の細胞内で成長する「氷の結晶」です。
食品は、無数の「細胞」が集まってできています。そして、その細胞の中には、旨味や栄養をたっぷり含んだ水分(細胞内液)が満たされています。
緩慢冷凍の場合
最大氷結晶生成温度帯をゆっくりと通過すると、細胞の外側にある水分から先に凍り始めます。すると、細胞内の水分が外に吸い出され、氷の結晶が大きく、そして鋭く針のように成長していきます。
大きく成長した氷の結晶は、周りの細胞膜を物理的に突き破り、破壊してしまいます。風船を内側から針で刺すようなイメージです。
そして解凍時。破壊された細胞は、もはや水分を保持することができません。細胞の中から、旨味成分や栄養素を含んだ水分が「ドリップ」として流れ出てしまうのです。これが、解凍後の食品がパサパサになったり、味が薄くなったりする最大の原因です。
急速冷凍の場合
最大氷結晶生成温度帯を瞬時に通過すると、水分が移動する時間がありません。細胞の内側と外側で、ほぼ同時に水分が凍結し、無数の「微細な」氷の結晶が生成されます。
氷の結晶一つ一つが非常に小さいため、細胞膜を傷つけることがほとんどありません。細胞は、凍結前の健全な状態を保ったまま、眠りにつく(活動を停止する)のです。
そして解凍時。細胞が破壊されていないため、ドリップの流出は最小限に抑えられます。細胞内に旨味と水分がしっかりと保持されているため、まるで調理直後や収穫直後のような、瑞々しさと美味しさが蘇るのです。

「静菌」と「殺菌」の違い
急速冷凍のもう一つの重要な役割は、細菌の活動を止める「静菌」効果です。
•殺菌: 細菌を死滅させること。(例:加熱殺菌)
•静菌: 細菌の活動を一時的に停止させ、増殖できない状態にすること。
冷凍は、細菌を殺すわけではありません。-18℃以下の環境では、ほとんどの細菌は活動を停止し、増殖することができなくなります。急速冷凍は、食中毒菌が活発に増殖する危険温度帯(10℃〜60℃)を素早く通過させることで、細菌が増える隙を与えずに静菌状態に持ち込むことができるため、HACCPの観点からも非常に有効な衛生管理手法となります。
ただし、解凍して常温に置けば、眠っていた細菌は再び活動を始めるため、解凍後の温度管理も同様に重要です。
まとめ
急速冷凍がなぜ美味しいのか、その原理をご理解いただけたでしょうか。
•ポイント1: 食品の品質は、-1℃〜-5℃の「最大氷結晶生成温度帯」をいかに速く通過するかで決まる。
•ポイント2: ゆっくり通過すると、氷の結晶が大きく成長し、食品の細胞膜を破壊してしまう。
•ポイント3: 細胞が破壊されると、解凍時にドリップとして旨味と水分が流出する。
•ポイント4: 急速冷凍は、氷の結晶を微細なまま凍結させることで細胞破壊を防ぎ、品質を守る。
この科学的な原理を知れば、もはや「冷凍=品質が落ちる」という古い常識に囚われる必要はありません。正しい知識と、適切な急速冷凍機があれば、食品の価値を、時間や場所を超えて、未来へ届けることができるのです。
冷凍の「なぜ?」が分かれば、ビジネスはもっと面白くなります。ぜひ、私たちと一緒に、冷凍技術の奥深い世界を探求してみませんか。
