急速冷凍の歴史| Clarence Birdseye の発見から現代技術まで

今や私たちの食生活に欠かせない存在となった「冷凍食品」。スーパーの冷凍ケースには、世界中の美味しいものが溢れ、家庭の食卓から飲食店の厨房まで、あらゆる場所でその恩恵を受けています。

この便利で豊かな食生活を支える根幹技術こそが「急速冷凍」です。しかし、この画期的な技術が、いつ、誰によって、どのようにして生まれたのか、その歴史を知る人は多くありません。

急速冷凍の歴史は、ある一人のアメリカ人生物学者の、極寒の地での偶然の発見から始まりました。彼の名は、クラレンス・バーズアイ(Clarence Birdseye)。後に「冷凍食品の父」と呼ばれることになる人物です。

この記事では、バーズアイの偉大な発見から、現代の最新冷凍技術に至るまでの、急速冷凍の進化の軌跡を辿ります。歴史を知ることで、急速冷凍技術の本質的な価値が、より深く見えてくるはずです。

すべての始まり:バーズアイとイヌイットの知恵

1912年、若き生物学者であったクラレンス・バーズアイは、毛皮の取引業者として、カナダの極北地域ラブラドールに滞在していました。そこで彼は、先住民であるイヌイットの人々の驚くべき食生活を目の当たりにします。

イヌイットたちは、釣り上げた魚を氷の上に放置します。外気温が-40℃にもなる極寒の環境では、魚は釣り上げられた瞬間に「カチン!」と音を立てるように凍りつきます。

数ヶ月後、その凍った魚を解凍して食べてみたバーズアイは、衝撃を受けます。

「まるで、たった今釣り上げたばかりのように新鮮で、美味しい!」

当時、アメリカで一般的に行われていた「緩慢冷凍」された魚は、解凍すると水分が抜け、ぐにゃぐにゃで不味いもの、というのが常識でした。しかし、イヌイットが凍らせた魚は、全く品質が劣化していなかったのです。

発見から発明へ:急速冷凍の原理の発見

科学者としての好奇心に火が付いたバーズアイは、その違いがどこにあるのかを徹底的に観察・分析しました。そして、ついにその秘密を突き止めます。

•イヌイットの冷凍(急速冷凍): -40℃という超低温の環境で、魚が一瞬で凍る。このとき、魚の細胞内の水分は「小さな氷の結晶」のまま凍結するため、細胞組織を破壊しない。

•従来の冷凍(緩慢冷凍): 比較的高い温度で、ゆっくりと時間をかけて凍らせる。この過程で、水分が「大きな氷の結晶」へと成長し、細胞膜を突き破ってしまう。

「食品の品質は、凍結のスピードで決まる。速く凍らせれば凍らせるほど、氷の結晶は小さくなり、細胞の破壊を防げる」

これが、現代に至る急速冷凍技術の根幹をなす、偉大な原理の発見でした。彼は、イヌイットが経験的に知っていた知恵を、科学的に解明したのです。

事業化への道:世界初の冷凍食品会社の誕生

アメリカに帰国したバーズアイは、この発見を事業化すべく、人工的に急速冷凍を作り出す装置の開発に没頭します。そして1924年、2枚の金属板で魚を挟み、冷却した塩化カルシウム溶液を循環させて凍結させる「多板式急速凍結機」を発明。翌年、世界初の商業的な冷凍食品会社「Birdseye Seafoods, Inc.」を設立しました。

当初、「冷凍食品は不味い」という固定観念に阻まれ、事業は困難を極めました。しかし、彼は諦めませんでした。冷凍食品を保管するための冷凍ショーケースを小売店に貸し出し、消費者への啓蒙活動を粘り強く続けました。

やがて、その品質の高さが認められ、バーズアイの冷凍食品はアメリカの食卓を席巻していきます。彼の会社は、後に食品大手ゼネラルフーヅ(現クラフト・ハインツ)に買収され、「バーズアイ(Birds Eye)」ブランドは、今なお世界中で愛される冷凍食品の代名詞となっています。

現代への進化:より速く、より優しく

バーズアイが発見した「速く凍らせる」という原理は、今も変わりません。しかし、その「速さ」と「質」を実現するための技術は、その後、目覚ましい進化を遂げました。

•エアブラスト式: バーズアイの発明以降、主流となったのが、冷たい風を吹き付けて凍らせる方式。大量生産に向いており、技術の普及に大きく貢献しました。

•リキッド式(液体凍結): 1960年代頃から開発が進んだ、冷却した液体に漬けて凍らせる方式。空気よりも熱伝導率が高い液体の特性を活かし、エアブラスト式を遥かに凌ぐ凍結スピードを実現しました。

•3Dフリーザー®(ACVCS式): そして現代。KOGASUNが開発した3Dフリーザー®は、「速さ」だけでなく「凍結の質」を極限まで高めるという新たな次元を切り拓きました。湿度を保った冷気が食品を包み込むように凍結させることで、食品の乾燥を防ぎ、細胞へのダメージを最小限に抑えます。これは、バーズアイが目指した「獲れたての品質」を、より高いレベルで実現する技術と言えるでしょう。

まとめ

急速冷凍の歴史は、一人の男の探究心と、自然の中に隠された摂理の発見から始まりました。

クラレンス・バーズアイがイヌイットの知恵から学んだ「速く凍らせれば、品質は保たれる」という普遍的な原理。それは、100年近い時を経て、より高度な技術へと進化しながら、今もなお、私たちの食生活を豊かにし続けています。

•発見: 極寒の地で、魚が一瞬で凍ると鮮度が保たれることに気づく。

•原理: 凍結速度が速いほど、氷の結晶が小さく、細胞破壊を防げることを解明。

•発明: 人工的に急速冷凍を作り出す「多板式急速凍結機」を開発。

•進化: エアブラスト式、リキッド式、そして3Dフリーザー®へと、技術はより高度化。

歴史を知ることは、未来を創るための羅針盤となります。バーズアイが夢見た「いつでも、どこでも、獲れたての味を」という想いを受け継ぎ、KOGASUNはこれからも、冷凍技術の新たな可能性を追求し続けていきます。

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