「HACCP対応のために、急速冷却が必要だと聞いた」 「調理した料理を、安全に長期保存したい」 「ブラストチラーと急速冷凍機、うちに必要なのはどっち?」
食品の品質と安全性を高めるための設備として、「ブラストチラー」と「急速冷凍機」は、しばしば混同されがちです。どちらも「食品を急速に冷やす」という点では共通していますが、その目的、得意な温度帯、そして最終的に得られる効果は全く異なります。
この2つの違いを正しく理解せずに導入してしまうと、
•「HACCPの基準を満たせなかった…」
•「冷凍したのに、解凍したら品質がボロボロだった…」
といった、期待外れの結果に終わってしまう可能性があります。
この記事では、業務用冷凍・冷却設備の専門メーカーであるKOGASUNが、「ブラストチラー」と「急速冷凍機」の根本的な違いを、それぞれの役割、温度、目的という3つの観点から、誰にでも分かりやすく徹底的に解説します。
Contents
結論:目的が違う!「冷却」か「冷凍」か
まず結論から言うと、この2つの最大の違いは、その名の通り「目的」です。
•ブラストチラー → 主な目的は「急速冷却」 加熱調理したアツアツの食品を、食中毒菌が繁殖しやすい危険温度帯(10℃〜60℃)を素早く通過させ、チルド状態(約3℃)まで一気に冷やすための機械です。
•急速冷凍機 → 主な目的は「急速冷凍」 食品を、品質劣化が最も進む最大氷結晶生成温度帯(-1℃〜-5℃)を素早く通過させ、冷凍状態(-18℃以下)でカチカチに凍らせるための機械です。
ブラストチラーは**「安全」のための衛生管理設備、急速冷凍機は「品質と長期保存」**のための設備、と大別すると理解しやすいでしょう。

| 項目 | ブラストチラー | 急速冷凍機 |
|---|---|---|
| 目的 | 急速冷却 | 急速冷凍 |
| 到達温度 | 約3℃(チルド) | 約-18℃以下(フローズン) |
| 主な役割 | HACCP対応、食中毒菌の増殖抑制 | 品質維持、長期保存 |
| 得意な温度帯 | 90℃ → 3℃ | 3℃ → -18℃ |
| 関連キーワード | 安全性、衛生管理、クックチル | 品質、フードロス、通販、クックフリーズ |
違い1:役割と温度帯
ブラストチラーの役割:「安全」を守るHACCPの要
ブラストチラーの第一の役割は、食中毒菌の増殖を防ぎ、食品の安全性を確保することです。
加熱調理した食品を室温でゆっくり冷ますと、細菌が最も活発になる「危険温度帯(10℃〜60℃)」に長時間とどまることになり、非常に危険です。HACCPの考え方に基づく大量調理施設マニュアルでは、「加熱調理後、30分以内に中心温度を20℃付近まで、90分以内に10℃以下まで冷却すること」が推奨されています。[7]
この基準を自然放冷でクリアすることは不可能であり、ブラストチラーはこの基準をクリアするために不可欠な設備なのです。加熱調理(Cook)したものを、急速冷却(Chill)して提供する「クックチル」システムの中核を担います。
急速冷凍機の役割:「品質」を保ち「未来」へ届ける
急速冷凍機の役割は、食品の美味しさや食感、栄養価といった「品質」を、凍結前の状態とほとんど変わらずに維持し、長期間保存することです。
食品は、0℃から凍り始めるわけではありません。-1℃〜-5℃の「最大氷結晶生成温度帯」で、食品中の水分が氷の結晶へと変化します。この温度帯をゆっくり通過すると、氷の結晶が大きく成長し、食品の細胞を破壊してしまいます。これが、解凍時のドリップや食感の悪化の最大の原因です。
急速冷凍機は、この魔の温度帯を圧倒的なスピードで通過させることで、氷の結晶を微細なまま凍結させ、細胞破壊を防ぎます。これにより、調理(Cook)したものを、急速冷凍(Freeze)してストックしておく「クックフリーズ」システムを実現し、フードロスの削減や計画生産、EC通販といった新たなビジネス展開を可能にします。
違い2:得意な仕事が違う
ブラストチラーも急速冷凍機も、強力なファンで冷気を吹き付けるという基本構造は似ています。しかし、その設計思想は、それぞれの得意な温度帯に合わせて最適化されています。
•ブラストチラー: 90℃といった高温の食品から、効率よく熱を奪う能力に長けています。熱い蒸気を大量に排出するための排気能力や、熱交換器の設計が工夫されています。
•急速冷凍機: 0℃以下の温度帯、特に-1℃〜-5℃の潜熱(液体が固体に変わる際に放出される熱)を効率的に奪い、素早く凍結させる能力に特化しています。
違い3:どちらを選ぶべきか?
では、あなたのビジネスに必要なのはどちらでしょうか?答えは、「何を、どうしたいのか?」によって決まります。
【ブラストチラーが適しているケース】
•調理した惣菜を、翌日〜数日以内に、冷蔵状態で販売・提供したい。(例:デパ地下の惣菜店、病院・給食施設)
•HACCPに沿った衛生管理を徹底し、食の安全を最優先したい。
•クックチルシステムを導入したい。
【急速冷凍機が適しているケース】
•調理した料理や旬の食材を、数週間〜数ヶ月単位で長期保存したい。
•フードロスを削減したい。
•冷凍食品として、EC通販や他店舗への配送を行いたい。
•クックフリーズシステムを導入したい。
【両方が必要なケース】
•セントラルキッチンなどで大量調理し、一部は近隣店舗へチルド配送、一部は遠隔地の店舗や通販用に冷凍ストックしたい、という場合です。この場合、「加熱 → ブラストチラーで急速冷却 → 急速冷凍機で急速冷凍」という流れが、安全性と品質を両立する上で最も理想的なプロセスとなります。
まとめ
ブラストチラーと急速冷凍機、その違いは明確になったでしょうか。
•ブラストチラーは、**「安全」のために「冷却(チルド)」**する機械。
•急速冷凍機は、**「品質と長期保存」のために「冷凍(フローズン)」**する機械。
この2つは、どちらが優れているというものではなく、全く役割の異なる、それぞれの専門家です。自社の目的を明確にし、事業計画に合った適切な設備を選ぶことが、成功への鍵となります。
KOGASUNでは、急速冷凍機はもちろん、ブラストチラーも取り扱っており、お客様の課題や目的に応じて、最適な機種の選定から、両方を組み合わせた効率的な生産ラインの設計まで、トータルでご提案しています。
「うちの運用だと、どちらが合っているんだろう?」 「両方導入する場合の、費用対効果を知りたい」
そんな疑問をお持ちでしたら、ぜひ一度、お気軽に私たちにご相談ください。専門のコンサルタントが、あなたのビジネスに最適な答えを導き出します。
▶ 関連記事「急速冷凍機の冷却方式別メリット・デメリット」を読む
参考文献 [7]: https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11130500-Shokuhinanzenbu/0000165537.pdf
“厚生労働省. (n.d.). 大量調理施設衛生管理マニュアル.”
