山大院と県内企業 再生医療用3Dフリーザー共同開発

引用元:宇部日報 2021年7月30日 掲載

再生医療用3Dフリーザー共同開発

山口大大学院医学系研究科器官病態外科学講座が、再生医療用3Dフリーザーを県内企業と共同開発した。患部に貼り付けることで組織を活性化させ治癒を進める「細胞シート」の急速冷凍装置。同時に細胞のバンク化戦略も進めており、長期間疼痛(とうつう)に悩まされる難治性皮膚潰瘍の治療に光明が差し込みそう。術後合併症の予防にも期待が掛かる。細胞シート移植の治療は2023年度から臨床研究、25年度から医師主導治験の開始を予定している。

同講座は14年度から再生医療による難治性皮膚潰瘍の治療法開発に着手。口の中から採取した線維芽細胞をベースに、血液中の末梢(まっしょう)血単核球を混ぜて細胞混合シートを作り、これを患部に移植して潰瘍を小さくしたり、早く治したりする研究を進めている。

発症から半年以上治らない患者6人に対し、各自の細胞から作ったシートを移植したところ、3人は潰瘍が治癒したが、3人は線維芽細胞の単離・培養がうまくいかず移植を中止した。そこで、マウスを使って他人の細胞から作るシートで確認したところ同等の成果が得られた。

呼吸器分野での応用も検討。肺がん手術で縫合箇所から空気が漏れる気管支断端瘻(だんたんろう)と呼ばれる合併症は、肺葉切除の場合、発生頻度は0・5%だが、死亡率は18~50%に上る。ラット実験で、縫合した部分に細胞シートをかぶせるように移植すると十分圧力に耐え、空気漏れしないことが分かった。食道をはじめ膵臓(すいぞう)、胆のうなどの術後合併症予防にも効果が期待できる。

細胞バンクは、健康な人が親知らずの抜歯の際に破棄される組織を活用。今年4月から了解を得られた20~25歳の協力で、9種類のウイルス検査で安全性を確かめながら研究を実施している。品質の高い細胞を必要な時に移植するには、細胞シートの状態で凍結できる手法の開発も欠かせず、今回、県の補助金を活用して食品用の特殊冷凍でトップシェアを誇る下関市の古賀産業と凍結装置を開発した。

3年間かけて完成したフリーザーは高さ175㌢、横幅87㌢、奥行き81㌢。一度に最大252シートを凍結できる。庫内は過酸化水素ガスで除染。従来のフリーザーは風が一方向で、場所によって冷気の風量が異なり温度が不均一になるのが課題だったが、この装置は3Dによる冷気で包み込むように急速冷凍でき、細胞へのダメージが少ない。解凍24時間後の細胞生存率は従来のフリーザー54%に対して、3Dフリーザーは85%と好成績だった。

開発に携わった上野耕司助教は「驚くほどの成果。培養した細胞シートを冷凍保存することが可能となり、より低価格・高品質なものを迅速に提供するめどが立ってきた」と言う。濱野公一教授も「細胞シートが実用化され、いずれ再生医療産業が、県の産業の柱の一つになれば」と望んでいる。

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