「細胞シート」の凍結装置【日本経済新聞】

引用元:日本経済新聞 2021年8月13日 掲載

再生医療用「細胞シート」 共同開発

山口大学と古賀産業(山口県下関市)は再生医療用に細胞を培養した「細胞シート」の凍結装置を共同開発した。細胞シートを一括作製して凍結保存できれば、製造コストが下がり、細胞シート移植治療の普及につながる。食品産業向け冷凍機器を製造する古賀産業はこれを機に医療向け分野に進出し、2022年から細胞シート凍結装置の営業活動を本格化する。

再生医療に活用 解凍後生存率高める

細胞シートの凍結装置は、古賀産業が食品産業向けに製造する急速冷凍機器の技術を基にして開発した。同社は高湿度の冷気で食品を包み込んで冷凍し、細胞が氷結晶で壊れない冷凍機器を「3Dフリーザー」の名称で販売している。食品が冷気で乾燥せず、解凍しても品質が維持されるため、握りずしや洋菓子を含めた幅広い食品産業で導入されている。この仕組みを応用する。

共同開発した装置は、凍結する細胞シートの枚数によって高地内の温度分布のムラが発生しないようにするなど細胞シートの凍結に特化した工夫を重ねた。7段のラックには最大で252枚の細胞シートを載せて凍結できる。解凍24時間後の細胞生存率は、従来型のフリーザーが54%だったのに対し、共同開発した冷凍装置は85%と大きく上回った。また動物実験により、いったん冷凍した細胞シートが、凍結しない細胞シートと同等の治療効果があることを確認した。

共同開発は、細胞シートの凍結方法を模索していた山口大学の研究者に山口産業技術センターが古賀産業を紹介したのがきっかけ。18年度から3年間、県の補助金を得て共同開発した。

山口大学院医学系研究科の器官病態外科学講座(濱野公一教授)は、再生医療により難治性皮膚潰瘍を治療する方法の研究を14年に始めた。動脈硬化や糖尿病、寝たきりなどで治癒が難しくなった皮膚の潰瘍部に細胞シートを貼り付け、血流を回復させて組織を再生する治療法だ。17年まで治療法の開発と細胞培養システムの確立に取り組み、18年から臨床研究を開始。25年度からの医師主導治験を目指している。

細胞シート移植治療は、すでに心不全の患者に対する細胞シート移植が実施されているほか、角膜上皮、食道、軟骨、歯根膜、肺、中耳など様々な組織を対象にした臨床研究や治験が進められている。ただ、細胞シートの普及に必要な保存法の開発は遅れていた。

今回、共同開発した凍結装置により解凍後の生存率が高いことを確認したのは、難治性皮膚潰瘍を治療するための細胞シート。軟骨などほかの細胞シートについては実験していないが、開発に携わった上野耕司助教は「他の再生医療向け細胞シートの凍結にも使える可能性がある」とみている。

 

山口大 古賀産業
シャーレ内で培養された細胞シート

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