ブルーカーボン ”海の森”から未来開く新産業へ


引用元:みなと新聞 2014年6月14日 掲載

鋳鉄製藻礁で藻場再生試験

山口県漁協 防府の海を“聖地”へ

山口県漁協吉佐統括支店(山口県防府市)が、限られた人員と予算で行う藻場再生への取り組みは2022年8月にスタート。防府市の「防府市漁場環境整備事業」を主体に、県の「単県農山漁村整備事業」としての補助も充てられ、小型の藻礁を管内の海へ沈設したのが最初だ。総事業費は、藻礁8基および潜水調査費などを含め総額500万円で実施した。

藻礁の土台となる素材は、スクラップの鉄を主成分とする鋳鉄(ちゅうてつ)を採用する。この藻礁を開発した「一般社団法人鋳田籠(ちゅうたろう)工法協会」(松村憲吾代表理事)によると、原価は鉄よりも高額だが、施工費が格段に抑えられるメリットがあるという。この藻礁を設置する際には、クレーンや運搬船など専用重機の使用が必要ないため、漁船に積んで設置地先まで運搬した後は、そのまま海中へ投入。海底に沈んだ部品を潜水士らが組み立てることで、比較的に軽作業で完工できる。

この藻礁は、縦と横が1メートル四方、高さ50センチの立方体で、底面がなく4つの側面と天端のふたを取り付けたパネル枠が一つの基本型となる=図。海中でも強靭(きょうじん)で耐食性に優れているのも特長だという。2年前に沈設した中浦漁港沖では、この基本型を3つ積み重ね、その最下層部を四面囲むようにパネル枠工を1つずつ組み合わせ、“トライアングル状”に設置した=写真➊。

枠工間は、アイゴなどによる食害を防ぐため高耐久ポリエステル亀甲網「STKネット」で覆い保護した。藻礁内には、海藻の幼体が付着した石とともに、二価鉄イオンやケイ素の溶出機能を持つ鋳鉄と竹炭を混合させた溶出体や、トリゼンクオリティオーシャンズ(福岡市)が開発した固形の海藻栄養剤「MOFU」も入れて、経過観察を続けた。

半年がたち海中を確認したところアカモク、クロメなどの海藻類やフジツボ、マガキなどの貝類が付着=写真➋。新たに誕生した藻場に寄り付くメバルの稚魚やアジ、イワシ類の存在も確認された。設置から2年がたつこの海域では、約60平方メートルの藻礁を起点に周囲を含め2260平方メートルもの藻場が形成されたとして、ジャパンブルーエコノミー技術研究組合(JBE)による23年度Jブルークレジットの認証を受けた。対象の二酸化炭素吸収量はわずかに0・3トンだが、手応えを感じた県漁協は、この事例に続く新たな富海、野島の2つの地先についても藻礁の設置をこのほど行い、クレジット量の増量に挑戦する。

アイゴ駆除でクレジット化

一方で、これら藻場づくりと並行して、藻場の喪失を防ぐ取り組みにも昨年から着手した。これは、環境省の「令和の里海づくり」のモデル事業として、磯焼けの原因でもあるアイゴを駆除し、商品化と収益化を図ろうとする試みだ。アイゴは鮮度が落ちると臭みが出るため、かご網で獲れる魚を中心に、フィレーに1次加工したものを急速冷凍機「3Dフリーザー®」で凍結。フライなどの調製品にも展開し、直売店や量販店で販売して採算性を探る計画。

また、アイゴの駆除により藻場が広がれば、対象海域はカーボンクレジットの申請も可能となる。漁協では、地元の海を“藻場のサンクチュアリ(聖地)”として、里海づくりの学びの場になることを目指している。

(西日本支社・田中龍二)

 

❶中浦漁港で沈設する鋳鉄製の藻礁を披露する、鋳田籠工法協会の松村代表理事(2022年8月)
❷半年ほどで複数種の海藻類が付着した

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