未利用魚はレトルト加工
山口県漁協の取り組み
旬の高級魚は加工・冷凍し、より付加価値を付けて首都圏のレストランに。大衆魚は開きなどに加工して量販店に広く販売。小魚などの未利用魚は学校給食に提供する。漁獲源、魚価安、漁業者の高齢化という厳しい現況を「儲ける漁業」にてんかんを目指し奮闘する山口県漁協の取り組みを紹介する。
山口県の漁業は数量が30年前の7割減、金額は半減、人口は6割減、2006年の同県の沿岸漁業(大中型巻網とマグロ延縄除く)水場高は3万2743トン(1983年比71%減)、227億9500万円(53%減)。漁業人口は全国平均の2倍以上の割合で減少、しかも65歳以上が半数で全国平均の34%を大きく上回る。
漁獲量が半分になったからといって、魚価が倍になるわけではない。「魚離れ」で需要が減り、サイズにバラつきのある魚は二束三文の相場がつくことも多い。「相場の出ない小魚やあまりに大きな魚は海に捨てていたことも」沿岸の漁師は嘆く。
「今ある魚をいかにして少しでも高付加価値を付け高値でさばき、漁業者の取得を増やすか」。県漁協の成松尚典販売部長らが考えついたのが①ロットがまとまる「大衆魚」のアジやハモなどを加工②首都園の高級料理店や結婚式場などに旬「高級魚」を冷凍販売③サイズがそろわず流通に乗らなかった「未利用魚」を骨まで食べられるようレトルト加工し、地元の学校給食に卸す。
■「瀬つきあじ」
県漁協は日本海側で水揚げする旬のマアジを10年をかけ「瀬つきあじ」としてブランド化してきた。同県の07年アジ水揚げ高は6200トン、23億700万円。10年前に比べ数量が約半減したが、金額は7%減。平均単価は76%上昇した。
県漁協萩市大井工場でアジを開き加工する。現在、県内の加工業者がこぞって「瀬つきあじ」の開きを買い付け加工、販売するまでにブランド力をつけた。下関の加工メーカーの瀬つきあじ開きは、都内の高級量販店で1枚500円と高額でも根強い人気を誇るという。
下関漁港で福岡県の巻網船がマアジを水揚げする光景も。「下関で揚げた方が「山口県産」になり、福岡市場より箱1000円ほど高くなるから、わざわざ入港する」と市場関係者。地道なブランド化が相場と流通を変えた好例だ。
■「西京はも」
山口県瀬戸内海産ハモは年間400トン前後と安定した水揚げがあり、全国有数の産地。ただ、夏場の関西向け活魚需要のみに支えられ、8月以降の大型魚は価格が暴落していた。規格外、季節外のハモを加工し2007年から「西京はも」としてブランド化。水揚げした後、浜で女性部がエラハラ抜きし、高鮮度で下関市の加工場に直送し、ハモ切りやすり身に加工。年間生産量は製品ベースで約40トン、浜に役3000万円の新たな収入を生み出した。
■首都園の高級店に
全国各浜から旬の魚を集め、都内の高級レストランや全国の有名旅館などに販路を持つZEN風土(東京都港区、増田剛社長)。丸の鮮魚を送っていた県漁協に「高額なディナー向けには鮮魚がいる。客単価1万円程度のランチ向けに旬の魚を1次加工して冷凍で送ってくれないか」との要望がきた。
萩産アマダイや、底物アカムツなどをフィレーから一切れ大にまで切り、真空凍結してサンプルを送った。冷凍は地元下関のエアオペレーションテクノロジーズの「3Dフリーザー」で凍結。有名レストランで県産魚を目にする機会が今後増えよう。「西京はも」も今秋から、東証1部上場の高級レストランを展開するひらまつグループに採用が決まったという。
■「地雑魚」が給食に
巻網や定置網で獲れる小型のアジやサバ、イワシやカレイなどで量販店が求めるサイズに合わず「雑魚」扱いされ、ただ同然でたたかれていた小魚類。これを浜で漁協女性部が頭や内臓を落とすなど1次加工し、漁協の加工場で小骨まで食べられるようレトルト加工、県内の学校給食に素材として提供できるよう準備を進めている。
漁村の雇用確保、魚価上昇につながり、未利用、資源をカツオ湯すると同時に骨まで食べられ健康にも良く、魚食普及にもつながる。学校栄養士など関係者から「ごみも出ず、さまざま味付けできて食育にもつながる上、カルシウム豊富で子どもの体にも良い」と高い評価を得ているという。
3年以内に60万食、1食当たり50円換算で売上高3000万円、浜の収入は1500万円に増えるとそろばんをはじく。「将来、需要が急拡大する医療介護食にも導入できれば」と期待を込める。
(下関支社・佐藤れい)
浜での1次加工は雇用を生み、高鮮度と高付加価値につながる
山口県産の水産物を加工し高付加価値をつけ全国へ売り込む
食品加工